焙煎方法 初級編-温度プロファイル
自家焙煎を始めるために焙煎機を購入したが、
「焙煎度合が同じにならない」「焙煎時間が毎回違う」「見た目は同じなのに味わいが違う」
等々、安定した焙煎ができない!というお問合せを多数頂きます。本記事では焙煎による
味づくりの前に必要不可欠となる『何℃の状態で何分熱を加えたか?』という基準となる
温度プロファイルについての説明をしたいと思います。
※この記事はドラム式焙煎機(富士珈機製やailioなど)をご使用の方にはイメージしやすいと思いますが、熱風焙煎機や手網焙煎を行うかたには機構が異なる為少しわかりづらいかもしれません。ただ、焙煎を安定させるという基本的な考えは焙煎方法が変わっても同じなので、少しは参考になるかもしれません。
これぐらいのことは知ってるよ!という方は、こちらの上級編をご覧くださいませ。
目次
本記事の執筆者経歴
本記事を記載している私は生豆の商社に8年間勤務し、生豆の営業をしておりました。現職(アラブ珈琲)含めると計200店舗以上の自家焙煎店様を担当させていただき、色々な焙煎方法や悩みを聞いてきました。自家焙煎店OPENのお手伝いも20店ほどお手伝いさせて頂きました。安定した焙煎を行う1つの考えとしてご参考になれば幸いです。
温度プロファイルを作る目的
焙煎とは
与える熱量とその熱量に何分生豆をさらしたかという「温度プロファイル」を管理する
ことで初めて安定した焙煎・味づくりができるものと考えております。
「感覚的に・・・」とか「焙煎中の香りで・・・」といった要因で焙煎方法を安定化させている人も
少なからずいますが、焙煎とは「化学」ですので感覚に頼って焙煎を安定化させるのはとても
難易度が高く、化学的に根拠の無い焙煎方法は風味や外観の安定性を欠き、焙煎者自身が
「このコーヒーはもともとどんな味だっけ・・・?」という迷いや「いつもと味違うくない!?」
という顧客クレームを引き起こす要因となります。
温度プロファイルを定めて焙煎ができるようになれば、「風味、焙煎時間、焙煎豆外観」といった
変動要因を安定させることが可能です。焙煎の時間を火力調整・ダンパー操作によって短くしたり、
長くしたりすることでコーヒーの風味は変わるのですが、いきなり火力・ダンパー操作を前提とした
プロファイルを作成するのは初心者にはかなり難易度が高いので、
「火力・ダンパー調整を行わない基準となるプロファイル」を確認した後、
「火力・ダンパー操作を行ったプロファイル」を作成したほうが焙煎も安定すると
思いますので、本記事では基準となるプロファイルの確認方法を主にお話します。
基準となる温度プロファイルを確認するには?
温度プロファイルを作るにあたり、もっとも重要なことは
「今何℃の熱を焙煎機に与えているのか」を把握することです。焙煎が安定しない人の中に
「焙煎機のスイッチをつけて一定の火力でダンパー『中』の設定で200℃になるまで待って、
200℃になったタイミングですぐ生豆投入してます」という方がいらっしゃいました。
この手順では焙煎機に対して200℃ピッタリの熱を与えているのか、それとも200℃以上に
あがる230℃程の熱量を与えているのかがわからず、これでは安定した焙煎はできません。
そこでまず行って頂きたいのが、200℃丁度で安定する熱量調整・ダンパー(排気の開閉操作)
調整ポイントを見つけることです。例えば弊社にある10kg富士珈機様の焙煎機であれば、
ガス圧「50」でダンパー位置がニュートラルの状態で200℃状態をキープすることが可能です。
この調整ポイントを見つけるときは生豆投入口や取り出し口が閉まった状態の焙煎する時と
同じ状態で行ってください。焙煎機の機体差や煙突の長さによる影響から調整ポイントが
異なりますので、同一機種の場合であってもポイントが異なります。
ダンパーの調整ポイント
このポイントを見つける手順として、まずダンパーの開閉調整から行います。
焙煎機に熱を加えている状態で(150℃-220℃)、サンプル挿し棒を抜き手を当ててみてください。
手を当てた際に熱さを感じられない場合はダンパーを開きすぎ(排気が強すぎる)、
手を当てた際に手を置いてられないぐらい熱い場合はダンパーを閉めすぎ(排気が弱すぎる)
という状態です。手をあてて少し熱を感じるぐらいが、焙煎機に与えた熱量が適正に排気されている
「ニュートラル」の状態です。
熱量の調整ポイント
ダンパーのニュートラルポジションを掴めたら、次は焙煎機に与える熱量を調整して200℃に
なるようにしてみてください。5分ほど温度が変わらなければ、焙煎機に対して200℃を与えている
状況が確立し、安定した焙煎方法の最も重要なポイントである『今何℃の熱を与えているのか?』
がわかるようになりました。
生豆の投入量を規定する
火力調整、ダンパー調整によって生豆の投入温度(200℃)、生豆に与え続ける熱量(200℃)が
確立できました。今度はその200℃の熱量を何gの生豆に与えるのかを規定する必要があります。
例えば焙煎可能量が1kgの焙煎機であれば生豆投入量1kgで焙煎するより、
生豆投入量200gのほうが熱をかける対象数が少ない分早く焙煎が進行します。
生豆投入が焙煎許容数に近いほど焙煎に時間がかかり、離れるほど焙煎が早く完了しますので、
安定した温度プロファイルを作るには毎回同じ数量を投入して焙煎する必要があります。
投入量を規定する際は、「焙煎許容数の7割ぐらい」や「販売数に応じた必要出来高数」を
目安に規定すればよいと思います。ここでの投入量があまりに少ないと投入量を多くした際との
温度変化が大きく変わってきますので、ロスがでてしまいますが焙煎を安定させるための
必要投資だと思って焙煎許容数の半量以上はいれておいたほうが良いです。
使用する生豆を規定する
基準となるプロファイルを確認するにあたり、使用する生豆を統一することも重要で、
焙煎する生豆によって焙煎の進行速度は変わります。例えばブラジルのコーヒーは中米産や
コロンビア産のコーヒーに比べて低地で生産されていますので、焙煎が早く進行します。
一方高地産のコーヒーは低地産のコーヒーに比べて焙煎の進行度合いが遅くなります。
基準となる温度プロファイルを作る時は、「もっとも焙煎するであろう銘柄」の標高を基準に
作成すれば良いと思いますが、あくまで練習用として使用する生豆になりますので
あまり高価なものを使用するのももったいないので、価格も比較的安く、欠点豆・未成熟豆の
混入数が少ないBrazil No.2がおススメです。
4/5規格だと未成熟生豆の混入が多く、焙煎完了後色づいていないものが入ってしまい
「均一に焙煎できなかったか・・・?」という余計な迷いを生んでしまいます。
少し脱線しますが私は焙煎の難しさ=標高の高さで考えてます。
ブラジルのような600m-800mほどの平地で生産されているコーヒーであれば、
昼夜の寒暖差が少ないことからアッサリと成長します。
反対にコロンビアのような1,600mほどの山岳部で生産されているコーヒーでは
昼夜の寒暖差が大きく、その厳しい環境下でストレスを受けながらジワジワと成長するため、
細胞数が多く生豆が固い傾向になると考えています。固い生豆ほど焙煎の進行度が遅く、
色づきも遅いためどこまで焙煎すればいいのか?がわからなくなりますが、
基準となるプロファイルを作成しておけば、標高による焙煎進行度の違いを把握することができ、
標高が高いコーヒー用の温度プロファイルを作成することが可能です。
上記で少し触れた欠点豆に関する記事はこちらをご覧いただければと思います。
記録する内容
200℃で投入量と投入する生豆が決定したら、次は焙煎時に記録すべき項目を確認しましょう。
焙煎時は記録を取りましょう。この焙煎記録の積み重ねによってはじめて安定した焙煎ができます。
投入温度・投入生豆・投入量は規定しているので記録する必要はありませんが、
1分間または30秒ごとの温度を計測することは必須です。また焙煎が完了した時間も記録しましょう。
1回目の炸裂を知らせる1ハゼが何分何秒だったか?も記録しておけばより有効な記録になります。
かなりシンプルではありますが、私が使用する焙煎記録表です。
「バッチ数」とは当日何回目の焙煎なのか?という意味です。1回目に焙煎した時と、
2回目に焙煎する時では焙煎機の予熱・蓄熱量が高まる為、
これに応じて温度プロファイルも変わるので記録しておいたほうがよいです。
「煎り上がり重量」とは焙煎完了後の焙煎豆の重量です。生豆の投入量に対して焙煎豆の重量を
測定することで、どれぐらいの目減率になったか計算することができます。
同じ温度プロファイルで焙煎できれば目減り率も同じになるため、ひとつの目安になります。
また、商品の原価計算を行う上でも必須の記録項目ではないかと思います。
実際に焙煎してみる!
ながながと事前説明をしてまいりましたが、ここまで準備してようやく基準となる温度プロファイルを
作成できます。焙煎中は火力の調整や、ダンパー位置を変更することなく焙煎してみましょう。
弊社の場合、10kg焙煎機で200℃の状態で7kg投入し、2ハゼ(2回目の炸裂音)まで火力及び
ダンパー操作を一切行わずに焙煎した場合は以下のような記録になります。
※この時間経過と温度変化は焙煎機の性能や、焙煎機の構造(直火や半熱風)によって異なるので、
あくまで参考までにお願いします。
同一の設定で複数回焙煎すれば、だいたい何℃で何KG投入すれば、ブラジルなら何分ぐらいで
2ハゼまでいけるか?というのがわかってきます。同じプロファイルにならない場合は何か設定が
異なっていたことが考えられますので、各種設定を再確認してみてください。
あるあるなのは生豆の投入口が開きっぱなしだった。。とか、
サンプル挿し棒が完全に差さっていなかったとかがあります。
どちらの場合でも機内の温度が下がりますので、必ず毎回確認するようにしましょう。
試飲してみる
実際に200℃の状態で2ハゼまで焙煎したコーヒーを試飲してみましょう。
焙煎直後のコーヒーはガスを放出しているので、十分な抽出ができないので検証用として
試飲する場合は、豆の状態なら少なくとも1日後、粉の状態なら半日ほど常温保存して
ガスを放出したほうが、味わいはわかりやすくなります。
ここでの風味確認で、「少し生っぽい感じがする」「渋みがある」と感じるのであれば
焙煎時間が早いかもしれないので、投入温度を下げても良いですし、「味わいがスカスカ・・・」
と感じるのであれば焙煎時間が長いかもしれないので、投入温度を上げてもOKです。
上記でも記載しましたが、
いきなり火力・ダンパー調整を前提にした温度プロファイルを作成するのはなかなか難易度が高い
ので、まずは200℃で生豆を投入しその後何の操作もせず2ハゼまで焙煎してみた時の味わいを確認してみてください。
ここでの味わいにある程度納得がいけば、無操作で焙煎した時の「基準プロファイル」
として設定します。この基準となるプロファイルを認識することで、
「高温短時間で焙煎してキレと香りのあるコーヒーにしてみたい」
「長時間焙煎して柔らかさやマイルドな味わいのコーヒーにしたい」という調整が容易になります。
投入温度・火力調整による味わいの調整については上級編でまとめたいと思いますが、
以下のように通常焙煎から高温短時間・低温長時間のプロファイルを作ることが
可能になりますので、まずは基準となるプロファイルを見つけてください!
まとめ
長々と記載してまいりましたが、お伝えしたかったのは
・一定の温度になるようにダンパーと火力を調整ポイントを見つける。
・熱量を一定に、使用する生豆、生豆の投入量を規定する。
・操作無で焙煎を完了し基準となるプロファイルを見つける。
・基準ができてはじめて、プロファイル作りができる!
ということでした。私が焙煎機を触りだしたころは、投入した温度と焙煎時間を管理するだけで
味わいが安定するものと考えておりましたが、業界の先輩方やこれまで担当した自家焙煎店や
ロースターの方から焙煎方法についての考えを聞き、ものすごく不安定な焙煎をしていたのだと
気づかされ、以降本内容の方法で焙煎するようになりました。
コーヒーの味わいを決めるのは生豆原料が持っている特徴や性質によるところが
とても大きいと思いますが、その特徴をより引き出すための焙煎方法を確立する手段が
「温度プロファイル」による管理です。何度も焙煎・記録・試飲を繰り返すことで、
「この生豆ならこの焙煎方法でやってみよう!」という経験則に基づいた焙煎が
できるようになるので、おススメします。
投稿者プロフィール
- 西埜元成
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アラブ珈琲株式会社の西埜元成(にしのもとしげ)と申します。
高校生の頃からコーヒーに関わる仕事を始めて早20年。
焙煎豆の挽き売り、生豆商社での経験を活かして生豆販売、
焙煎豆商品の商品設計、焙煎豆製品の製造管理、
自家焙煎店への生豆販売や焙煎サポート 等々コーヒーに関係する
業務に従事しております。
コーヒーに関係する質問や、お店の開店、焙煎方法等で質問ございましたら、遠慮なくご連絡ください。